私の好きな世界のMuseum:17マンハッタンチルドレンズミュージアム

「私の好きな・・・」というタイトルに反して、「その時の展示が好みではなかった」という場所も紹介しようと思う。なぜ好みではないのか、という気持ちに向き合えば、きっと、自分が何を大切に思うのか、という気持ちに気づけるから。

そして、あくまでも「その時の展示が」「私の好みではなかった」として読んで頂きたく、施設そのものを批判しようというつもりは全くない。この記事を書くために、施設のWEBサイトを確認したら、現状、コロナ禍の対策打ち出しながら運営を続けていることや、オンラインのプログラムなども実施していることが分かった。子どもたちのために、できることを実践しようとする意志を感じて、その姿に心打たれた。想いを持つ人たちが運営している施設なのだと思う。

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さて、ニューヨークには、複数のチルドレンズミュージアムがある。有名なのは、ブルックリン・チルドレンズ・ミュージアムで、アメリカで一番古い。また、チルドレンズ・ミュージアム・オブ・ジ・アートと呼ばれる、アート活動に力を入れている施設もある。
この日、私と娘が訪れたのは、そのどちらとも違う、「チルドレンズ・ミュージアム・オブ・マンハッタン」。都会の真っただ中のミュージアムは、1階ごとの床面積は決して広くはなく、地下から地上5階まで、細く長く、子どもの遊び場を確保していた。

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階段には、プレイモービルの展示。

各階ごとに遊びががあり、1階は人の身体の作りに焦点を当てた展示、他の階にはお店屋さんごっこの階や、乗り物の階などがある。例えば乗り物の階には、消防車、タクシー、地下鉄、バイクなど、子どもたちが運転ごっこができるサイズの乗り物が並んでいる。

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消防車の隣には、消防士ごっこができるコーナー。黒い水鉄砲のような形をしたものが水のホースを模していて、正面の建物の消火活動をする。

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無事に火を消し止めると、アルファベットが現れ、どうやら、3文字の単語が出てくるらしい。「C・O・T」とか「C・A・T」とか「E・G・G」とか・・・。
私が、「好みじゃないな」と感じたのは、実は、こういうところ。消防士、という仕事は、子どもたちにとってはヒーローのはずだ。勇敢に消火活動に挑み、火を消し止めた、やりとげたぞ、という場面。・・・ところが、消し止めた途端に、英単語のワークになってしまっては、本気で消防士になっていた子どもたちの盛り上がりに水を差すんじゃないかと思うのだ。

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お店屋さんごっこの台には、食材がたくさん!子どもの腰高の台がぐるりと囲んだ、比較的こじんまりとしたスペース。台の高さや、食材の置き方を見れば、ままごと遊びを始めたくらいの1~2歳くらいの年齢の子ども向きかな、と思う。
ところが、壁にある展示は、随分と難しい。

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豆について、生/冷凍/缶詰という加工方法の違いによってビタミンの含有量がどれくらい変化するのかが記載してある。他にも、無脂肪乳と低脂肪乳と牛乳の成分の違い、マフィンとシリアルの砂糖の量の違いなどが展示。子どもが理解できる内容ではないけれど、保護者が読むには掲示している高さが低くて読みにくそう。・・・いや、それ以前に、食べ物の栄養価に関する〈情報〉をただ展示したところで、子どもたちはその情報をココロとアタマに受け取ることができるのだろうか?

こんな風に見ていくと、私が「好みではない」と感じた要素は、何らかの〈情報〉を、実体験や実感が伴わないままに、〈文字による知識〉として、伝えようとしている点だと思う。

例えば、〈C・O・T〉を伝えたいならば、まずは巣箱そのものを用意したい。大きさもデザインも違う、いくつもの小鳥や鳩の巣箱があり、1つずつそーっと覗いて、小鳥(作り物でもいい)がいることを確かめたり、卵を温めていることを確かめるところから始める。様々な大きさや羽を持つ鳥たちが、巣箱のおかげで安心して暮らしていることを感じてもらいたい。そして、その上で、どれか1つの巣箱を覗いてみた時に、中に〈C・O・T〉と書いてあったりしたら、きっとその単語とスペリングを覚えると思う。そこに実感があるから。(まぁ、そこまでの展示を用意したら、単語のスペリングを1つ知っていることよりも、小さな生き物の暮らしや命に思いを馳せられることの方が、ずっとずっとすてきな気もするけれど。)

子どものための展示は、文字面で知識だけを伝えるのではなく、体験と実感を伴って感じることが、まず最優先にされなくちゃいけないよね。・・・とは言いつつも、自分が展示を作る立場になったら、つい、言葉で何かを教えようとしてしまうかもしれない。
どうしてか大人たちは、子どもたちに、自分の知っていることを「教えたい」欲望に駆られてしまうのだ。しかも、全く悪気なく。何かを教えて「あげる」ことは、子どもにとっていいことだと疑いもなく。

本来、子どもは小さければ小さいほど、新しいことに出会う時には、五感を使い自分の実感を持って知ることが必要だ。言葉だけでは新しい知識は得られない。Museumという場所が、その「五感を使い、自分の実感を伴って、新しいことに出会える」ことを保証する場所になればいいと改めて思う。

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そう言えば、このチルドレンズ・ミュージアム・オブ・マンハッタンには、保護者向けに、子どもの発達や発達に応じた関わりについて示した展示が沢山あった。施設の理念として、保護者が子どもと向き合うことを支えようという想いを、しっかりと抱いているのだと伝わってきた。そうだ、子どものためのMuseumは、子どもとの関わり方で大切なことを教えてくれる、そういう大人にとっても安心できる居場所であってほしい。

訪れた時に目にした展示の中には、好みではないものもあった。でも、だからこそ、親子のための場の在り方について、じっくり考えることができたなぁと思う。

■訪問データ

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Children’s Museum of Manhattan
-所在地:アメリカ合衆国(ニューヨーク)
-訪問日:2014年9月21日


■その他のチルドレンズミュージアム

ボストンチルドレンズミュージアム(アメリカ合衆国・ボストン)

プリーズタッチミュージアム(アメリカ合衆国・フィラデルフィア)

こどもの城(東京/2015年閉館/チルドレンズミュージアム的な場所)