300円店長のえほんやさん

魅力的な企画を何度もご一緒してきた
OSAGARI絵本 さんと、
わくわくするイベントを行いました。

子どもが店員として活躍する
「300円店長の えほんやさん」です。

今回、OSAGARI絵本さんと
どうして、この企画を実施するのか、と考え
「お仕事体験」という言葉では
お伝えしないことに決めました。

「お仕事体験」というと、なんだか
「本来は大人がやるものを
子どもが試しにやってみる」という
ニュアンスを感じるけれど
今回やりたいことは、そうじゃない。

子どもが店員になることで
彼らにしかできない関係性や空間が生まれる
子どもだからこそ、という
そういうお店にしようと、考えたのです。

子どもを真ん中にするお店だからこそ
いつもとは違う時間が流れる。
いつもは生まれない会話が生まれる。
いつもは気に留めないことを大事にする。

そこを大事にしたいし、
そこを大事にしようね、ってことを
訪れる人たちとも、共有していきたい。

さて、どんなドラマが生まれるでしょう。


舞台は区の福祉センター祭りの中の
1つのブース。
お祭りに来場した大勢の方が
お客様として訪れてくださいました。

子どもたちは1時間ずつ
6人のチームで働きます。
一番イメージしやすい
「レジでお金を受け取る」だけでは
ちょっと余るくらいの人数。
と他に何をしたらいいだろう、と
考えることも大事にしました。

チラシ配り。
本の整頓。
ラッピング。
オススメ本のPOP作り。
移動販売。

と、あれこれと仕事を見つけ
それぞれに考えて
1時間を過ごしてくれました。

目につく分かりやすい仕事以外に
色々な役割があって
どの役割にもそれぞれの楽しさがある
ってことを、感じてもらえたらな、と
思っていました。
だから
〇〇しかできなくてつまらなかった、とか
大事な仕事じゃなくて物足りなかった、と
思うことのないように
なるべく個々の動きに気づき
「いいね」って声をかけることに
一番気を付けました。

あとは、
大人がお膳立てしすぎるのでなく
子どもたちが自分で考えて動くことが
彼らにとっての満足につながるだろうと
私はなるべく
直接的に手を出さないことを
心がけていました。
何か必要そうなことがあれば
「あれをやってね」ではなく
「〇〇になってるけど
 どうしたらいいかな」と
声をかけるなど、
あくまでも子どもが中心。

幸い、子どもたちは、どの子も
1時間、仕事をやりとげても
「もっとやりたい」と言ってくれて
どうやら、
満足できる時間を
過ごしてくれたようです。

どの子にも、ひとりひとりのドラマがありました。


お店のチラシ配りの仕事をして
戻ってきた4歳の男の子。
何かすることはないかとお店を見渡し
ラッピングのお仕事があることに
気づきました。
ふと、クレヨンを手に、
紙に文字を書き始めます。

何かな?と見ていたら
「じょ、ってどうやって書くの?」
「で、ってどうやって書くの?」と
時折、まわりの人に聞きながら
ゆっくり、丁寧に、
「おたんじょうびおめでとう」と書き
ラッピング用の袋に貼りました。

そうか、ラッピング希望のお客様用に
メッセージ付きの袋を
作ろうと思ったのですね。

でも、その時点で、
本はもう30冊以上売れていたけれど
ラッピングの依頼があったのはまだ3回。
せっかく作った袋だけれど
活用されることはないだろうなぁ・・・なんて
私は思っていたのです。

ところが。

「えー!
 この袋でラッピングしてくれるの?」
という
なんだかうきうきした声が聞こえました。

2歳くらいの女の子を連れた
お母さんでした。
ラッピング袋を作った少年に
嬉しそうな調子で話しかけていました。
「あのねー、この子、明日が誕生日なの!
 この袋で、ラッピングしてください!」

こんなことって、あるんだな。

お客さんが購入した本を
少年は、自分の作った袋に入れ
リボンをつけて
どうぞ、と手渡しました。

大人たちはびっくりして感動したけれど
明日お誕生日の女の子も
びっくりを創り出した少年も
淡々としていました。

彼らにとっては
作ったものが
ふさわしい人のもとへ届くことは
当たり前なのかもしれません。


お仕事の最初の話し合いで「レジがやりたい人?」って
「レジがやりたい人?」って聞いたとき
いの一番に手を挙げた2人の女の子がいました。
年中さん。お友達同士のようです。

小学生1人と、年中さん2人で
レジの仕事を始めたものの
小学生の手際の良さに
しばらく、何もできずにいました。

「いらっしゃいませ」って
言ってみようか、って声をかけ
小さな声で言ってみました。
お金を受け取ると、
黙ってお隣の子に手渡し
1枚ずつリレーしていました。

楽しめているかな、と
少し気にして見ていましたが、
お客さんの波が過ぎて
小学生が別の仕事を探しても
2人はレジから離れません。

「お店にどんな本があるのか
見てきてもいいですよ」と声をかけても
レジから離れません。

お客さんに、オススメの本を質問されて
はじめて、レジを離れたものの
誰かが買いにくると
大慌てでレジに戻るのです。

大人の目から見れば
物足りなく思うところは
あるのかもしれない。
でも、彼女たちは、彼女たちなりに
レジの係だ、という責任感を持って
一生懸命に仕事をしていたのでしょう。

大人から見て、そつなくできたかどうか、ではなくて
頑張りたい、という気持ちこそが、
彼女たちにとって大切なことだったのですね。


300円店長の企画は
今までは、主に
未就学児さんが参加していたそうです。

もっと、こんなことができたら
すてきだと思うんだよね、という願望の中には
「小学生が入ってくれたら
充分に実現できる」ものも多かったのです。
そこで、今回は、小学生と未就学児が
一緒に仕事をすることにしました。

私は、内心では
小学生が小さい子どもたちを
サポートすることを
期待していました。
とはいえ、
小学生自身も「絵本屋さんの仕事」をしたくて
参加してくれるので
サポートだけではなく
自分の楽しみも充分満たしてもらいたい。

さて、どうなるか。

始まってみると
しっかり者小学生の
仕事の手際良さは想像以上で
未就学児さんの出る幕がない
と感じる場面もちらほらありました。

また、最初のうちは、
小学生としては、助けるつもりで
結果として、未就学児さんの仕事を
横から取ってしまうことも多かったのです。

小学生が、ひとしきり
本気を発揮するのを待って
それから、様子を見ながら
やんわりと、声をかけてみました。

「次は、〇〇ちゃんにもやらせてもらっていい?」
「ちょっと待ってみてね」
「このやり方を教えてあげれくれるかな?」

小学生にはもちろん自分の楽しみを感じてもらいたい。
ただ、自分が活躍する、という楽しみの先に
もう1つ
誰かをサポートする、という楽しみも知ってもらえたら
それも、また、
すてきなことだなと、思ったのです。

そして、どうなったか。

写真は、ラッピングをしているところ。
4歳の女の子が、リボンの形を整えるのを
2年生の女の子が、
リボンを留めるためのシールを用意して
ぐっと、待っています。

あぁ、小学生を信じて
異年齢での企画にして良かった!

こちらの思惑通りの展開になったから
嬉しい訳じゃないんです。
子どもたちが、
自分なりに色々考えながら
絶えず変わり続けている
その瞬間を目撃できたことが
とても、嬉しかったのです。


移動販売中の店員さんたち。
こちらも小学生と年中さんのコンビです。
積極的にお客さんに声をかけて
どんどん前へと進む年中さんを
小学生が、後ろからしっかりワゴンを押し
さりげなく、フォローしています。
この2人はこの時初対面です。
ここにも、異年齢のすてきな姿がありました。


子どもの真剣な表情が好き。
あれやこれやと考える姿も好き。
やりとげた嬉しさも好き。

だから、子どもたちが、
1人1人異なる一生懸命を発揮できる
こういう場は、本当に嬉しいのです。