2学期が始まりました。長い夏休み、こどもたちには、どんな特別があったのかなぁ、と下校中の小学生を見ながら考えていました。
夏休み中は、各所で、こども向けのイベントが開催されていました。イベントの内容を見ていると、「仕事体験」に関わるものが随分増えた、増えたというよりも市民権を得たなぁと感じます。
「仕事体験」が、こどもたちにとっては魅力的だってことに説明の必要がなくなってきたような印象を持ちました。
小さい頃、「大きくなったら何になりたい」を語ることが楽しいのは「大人になったら、なにか、すてきな存在に変身できる」って思っているからだと思うのです。「ヒーロー」や「おひめさま」になるのと同じように「サッカー選手」とか「ケーキ屋さん」に変身できる。
けれど、漠然と思い描く「なにかすてきな存在」の時期から1歩成長して、自分のこれからの先に、「はたらく自分」がいる、と気づく時、ふと、「将来なりたいもの」が語れなくなる時期があります。
そんな時期に、手の届かないヒーローではなく、すぐ隣にいる「カッコいいおとな」として、「はたらく人」に出会えたらすてきです。その、「カッコいいおとな」と共に、個々の仕事の憧れ要素を体感することができるのが、これらの仕事体験の魅力なのだと思うのです。
そう思うと、はたらくことや、はたらく人の魅力を知るプログラムは仕事そのものの体験以外にも、まだまだ考えられそうです。
はたらく人の、はたらく姿に、身近で出会い、心惹かれること。それは、〈こども〉と〈しごと〉との、すてきな出会いだと思います。
キッザニアがオープンしたばかりの頃、「こどもが夢を見つける」場所だと紹介頂くことが多々ありました。見学された方がそう受け取ったのならば、殊更に否定する必要もないのですが実のところ、私の想いは、逆でした。
無理に夢を見つけなくてもいい。むしろ、知らなかった仕事の存在を知り、「今までアイドルになりたいと思っていたけれどエンジニアって仕事も面白そう。どうしよう?!」と迷うきっかけになったらいい、とさえ思っていました。今も、思っています。
こどもにとって、実感を伴って知っているしごとの種類は、本当に限られます。その限られた中から「将来なりたいもの」を決められるこどももいれば「まだピンとくるものがないな」と感じるこどももいます。どちらのタイプのこどもも、キッザニアのような場所に行ったり、仕事体験のイベントで知らない仕事に触れたりすると、ぐっと世界が拡がります。
今までの「なりたいもの」への想いが揺らいだり、選択肢が多すぎて戸惑ったり、あるいは、それでも「夢は変わらない」と決意を新たにしたり、・・・反応は1人1人違います。
・・・それでいいと思うのです。
早くから、1つの夢を一途に追い求めるタイプの人もいれば、視野を少しずつ広げながら自分の夢を探し続けるタイプの人もいる。世界的に名を成した人は前者のタイプが多いために、夢を一筋に目指すことの素晴らしさが語られることも多いですが、そうじゃない道筋でもいいんです。
自分が実感として知る世界を少しずつ拡げながら、変わったり迷ったりする。夢は何か、という結果ではなく、夢を決めるまでに経てきた経験や見聞きした世界、変わったり迷ったりした1つ1つの積み重ねの厚みが、夢の厚みだと思うのです。
だから、働く人に出会ったり、仕事の体験をしたり、そんな風に、知らなかった仕事に沢山沢山出会う場面を創り、豊かな「迷う」体験を、こどもたちに提供していきたいと考えています。
こどもがしごとに出会うこと、というのは、沢山の仕事名を「知る」こととは違います。「はたらく」ってこういうことなんだね、という、そのこどもなりの実感を得られることが、しごととの出会いだと考えています。
小学生の授業の「町たんけん」という授業の保護者ボランティアで、一緒に近くのお店への見学とインタビューに行ったことがあります。その時のこどもたちは、飲料ケースの仕組みに興味津々で、バックヤードを実際に見てきた特別を、クラスの友達に自慢していました。
「働いてる人だけが特別な場所に入れるんだよ!」
働いている実感と言うのは、最初はそんな興味や驚きから始まるのだと思います。「はたらいている人だけの特別なヒミツがある」「お店の中は、いつもパンのいい匂い」「お店用のパスタは、大っきな袋にぎっしり入ってて重たかった。」
大人目線から見て的を射た表現かどうかは問題ではなく、まずは、こども自身がうそをつかずに感じること。その先にはちゃんと、「はたらくこと」への気づきがあります。
「お客さまの知らないところで一杯準備している」「もっとおいしいパンを作りたいと思ってる」「美味しかった、と言われると嬉しい」
そんな気づきを得るために大切なのは、本物に触れることと、こども自身が興味を持つこと。「こどもとしごととの出会い」とは、個々の仕事への想いを実感することだと考え、これからもプログラムを作っていこうと思います。