久しぶりに全力疾走した

フリーランスで働きはじめたのがいつからなのかは、あんまり、はっきりしていない。

2015年の春にボストンから帰国した。1年ぶりの帰国。浦島太郎、ってほど、日本を離れていた訳でもない。前の会社にお願いすれば、戻れたかもしれない。
でも、その時の私は、「戻る」のではなく、違う方向に進みたかった。雇用されるのではなく個人でやっていこうかなぁ、と、思った。

大したビジョンもなく、戦略もなく、フリーランスとしてどんな仕事ができるのかも分からず、けれども、何とかなるんじゃないかと思って、「個人で仕事をする」と決めた。

とはいえ、「まぁ何とかなるんじゃないか」と思った仕事は、何ともならなかった。
端的に言えば、そんな甘い考えでは、仕事は全く獲得できなかった。

私がもう少し何かに突き抜けた天才だったら、また話は違ったのかもしれないが、「自由人の中の常識人」を自認する程度の人間は、コツコツ営業して、コツコツ仕事を取ってこなくちゃいけないのに、その方法さえも分かっていなかった。

そんな頃から、10年になる。

仕事獲得は今でも自信はないものの、なんだかんだ、かつて同僚だった人たちが仕事を依頼してくれたり、仕事を紹介してくれるサイトに登録したりして、有難いことに「個人事業主」と名乗れるくらいには続けることができた。
収入をあげられることも嬉しいし、何より、自分が必要とされる場面が1つでも2つでもあるのは、本当に幸せなこと。

ただ、個人事業主として、業務を受託して働きながら、ずっと物足りなく感じていたのは、「本気になりきれない」ことだった。いつも「いそがしくない訳じゃない、でも、なんか、がんばりきれていない」と言っていた。
なんか・・・、ぬるいんだ。
頂いた仕事内容が悪いじゃない。私の心の持ちようの話。

業務委託で頂く仕事の多くは、何かのプロジェクトのうちの一部を依頼される。委託内容の前後については、仕事をするための情報として聞くことがあっても、自分が直接関与する訳ではない。だから、依頼された業務が終われば、自分の仕事は終わる。その次のステップについては、取引先からの指示を待つ。プロジェクトは完了していないのに、自分の担当については、もう終わっちゃった、ということもある。

なんとなく、1つ1つの仕事についての思い入れが浅くなっていた。もちろん、言われた仕事は着実にやりとげる。自分の担当部分について、手を抜くわけじゃない。でも、依頼されたこと以外の「もっと良くなるかもしれないこと」を提案したり、先回りして進めておいたりすることは求められていない。
そのうち、依頼されたこと以外には意識を向けなくなっていった。
1つ1つの仕事に不満はなかったし、ボリュームの大きなものもあった。自分の得意分野を生かせるものが多く、やりがいもあった。でも、なんとなく、「がんばりきれていない」感じがずっと拭えなかった。

それが変わったのは、昨年の今頃。新規の業務委託先と結んだ契約の中身は、驚くほどざっくりしていて、しかも幅広く、数カ月働くうちに、「プロマネ」を委託されたのだと気づいた。「業務」委託ではなく「職務」委託。

いつもスラックのメッセージを気にして、自分が該当すると思えるものは、早めに拾う。(後から、自分のところに転がって来るくらいなら、早めに手を打っておいた方が良い。)夜も、週末も、作業を進めないと間に合わない。ずっと、仕事に意識を持っていかれる。
気づいたら、月何時間の契約だったのか、どうでもよくなっていた。
まさに「全力疾走」している気がした。

この全力疾走している感じを、ずっと求めていたんだよね、と、ちゃんと思えるくらいの冷静さはあった。一方で、一度トップスピードにのってしまった自分の速度を落とす方法は分からず、業務量のコントロールが効かなくなっていた。
一度「勤務時間度外視の働き方」をしてしまうと、委託側にとっては、それがデフォルトになる。期待される業務内容は雪だるまのように膨らんでいき、「このまま続ければ、いつか潰れるな」ってことも、想像がついた。ベンチャー経験の中では、そうやって潰れてきた人たちも見てきた。

私を駆り立てたのは「プライド」だったと思う。委託された業務内容が、あまりにも、自分の得意分野だったのだ。これまでの社会人経験の全てが生かせるくらいの。その分野に自分が関わっている限りは、中途半端なものを世に出したくない、と思うくらいのプライドがあった。
だからこそ、納得がいくほどの関わりができないならば、いっそゼロにする、というのも、自然な選択だったのかもしれない。

約1年間かなりのエネルギーを注いできた業務は、6月一杯で、委託終了となる。(厳密に言えば違う形でご縁は続くのだが。)
1年間、走り抜けた。ずっと念願だった〈全力疾走をする実感〉を久しぶりに持てたし、必要なこと・業務改善できることに自分で気づき、形にしていく作業は楽しかった。

ちょうど私が一番お役に立てるタイミングだったんじゃないかな、とも思う。0.1を1にするような時期だった。ゼロから立ち上げた訳ではなく、既にスタートはしていたけれど、それを整え形にしていく時期。

のんびりしたフリーランス生活を送っているうちに、全力疾走する体力や気力が落ちたんじゃないか、とちょっと懸念していたのだけれど、それも、まぁ、まだ何とかなることが分かったのも、有難かった。

ここから、また、新しいことに挑戦する。覚悟を決めて向き合いたいと思うし、大きな挑戦になると思う。久しぶりに「よく働いた」と言える1年間があったからこそ、これからの大きな挑戦も、まぁ何とかなるだろう、と思える。

自分に、おつかれさま、って言おう。
そして、また、来月から、別の道を、進む。今度は全力疾走じゃなく、ジョギングくらいの気持ちで、走り続けていこうと思う。