【季節のおすすめ絵本】8月:手をつなごう

この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。

8月は、人々が傷つけ合うことなく、憎しみ合うことなく、苦しむことなく生きるために、どうしたらいいだろうか、と、思いを馳せる季節でもあると思います。

平和、というテーマはあまりにも大きくて、私もどう扱っていいのか分からないです。ただ、平和、ということを思い巡らせていると、子どもたちの姿が浮かんできました。子どもたちが、自分の出会った人たちと丁寧に関係性を築いていく姿には、大切なものが詰まっている、と感じたのです。

子どもは素直だから、出会ったらすぐに、苦労もなく、簡単に「ともだち」になれる・・・そんな物語は、大人の勝手な幻想にすぎないなぁと思います。彼らは実に繊細に、ドキドキしたり、躊躇したり、勇気を振り絞ったりして、お互いに少しずつ近づき、「ともだち」になっていく。私には、そう見えます。

自分の出会った人と、丁寧に向き合い、手をつなぐ。人と人とが手をつなぐことは、簡単にできるわけではないけれど、きっと実現できること。そして、嬉しいこと。

そんな子どもの姿から何かを気づける人でありたいと思い、今月の本を選びました。

まずは、この本から。



とん ことり』筒井頼子:作 林明子:絵 福音館書店
仲良くなりたい、と言う思いを、どんな風に伝えるのか。そんな風に受け止めるのか。少しずつ少しずつお互いの距離が縮まっていき、お互いの存在に気づいていく様子が、本当に繊細に描かれています。
誰かと仲良くすることは、誰かの世界に入っていくことでもありますよね。相手の世界にずかずかと入り込むのではなく、そっと、そっと、お互いの様子を伺う過程があるからこそ、お互いに繋がった時の喜びが、深く深く伝わってきます。

そして、もっとエネルギッシュに、心を通わせようとする姿も。



まゆとうりんこ』富安陽子:文 降矢なな:絵 福音館書店
迷子になったうりんこ(いのししの子)と出会ったまゆが、お母さん代わりになって奮闘するお話。自分よりも弱いものを慈しみ、チカラを惜しまずに尽くすまゆの姿が、とても愛らしいのです。言葉が通じなくても、相手はどうして欲しいだろうかと慮り、思いを通わせようとする。そして、そんな風に自分のできる限りを尽くすと、なんだか自分まで嬉しい気持ちになるまゆには、なんだか清々しさを感じます。

心が通う相手がいることの喜びも。



サザンちゃんのおともだち』かこさとし:作 偕成社
毎日学校から帰ってくると「今日、学校でやったこと」を動物の友達に教えるサザンちゃんのお話。サザンちゃんと、幼い動物たちの関わりが、とてもいい。学校ごっこのような場の設定の中で、サザンちゃんは「サザンちゃん先生」と呼ばれんながらも、関わりは対等で、自分が楽しかったことを仲間たちにも伝えたいと思う真っすぐさを感じます。

その心通う関係性を、大切に大切に守ろうとする懸命さも。



ふたりはともだち』アーノルドローベル:作 三木卓:訳 文化出版局
本のタイトルだけではピンとこなくても、「がまくんとかえるくんの〈おてがみ〉の話」と言えば、あぁ!と思い出す人が多いかもしれません。国語の教科書にも出ていますね。その〈おてがみ〉も含めて5編のお話が1冊に入っています。
ともだち同士のがまくんとかえるくんですが、2匹の間にはちょうどいい距離感があるような気がします。お互いの暮らしや価値観を尊重し、ベタベタしすぎない。だから、気持ちがすれ違ったり、誤解があったり、どちらかが落ち込んだりすることもあるけれど、その度に、きっちりと向き合う誠実さを持っています。
その関係性があるから「ともだちでいられて幸せ」という言葉に、深みがありますよね。

最後に、とっておきの1冊のご紹介です。



これ、なあに?』バージニア・A・イエンセン/ドーカス・W・ハラー:作 
菊島伊久栄:訳 偕成社
手に取ってみれば、分かります。何も説明がいらないくらいに。
内容だけではなく、絵本の存在、在り方そのものから、人と人が手を取り合うことの大切さを伝えてくれる絵本です。
この本は、目が見える子どもも、目が見えない子どもも、一緒に楽しむことのできる絵本なのです。
解説:点字つきさわる絵本について
目が見えない子どもが楽しめるようにと、様々な手触りを工夫して作った凸は、目が見える私たちにも魅力的です。この本を手に取ったら、1つずつ全部の手触りを指で確かめ、凸に合わせて指でたどり、指先で本を味わいたくなると思うのです。
それがいいと思っています。目が見えない子どものための絵本、と、特別なものとして扱うのではなく、自分たちにとっても楽しいものとして、大好きになること。そして、その大好きな絵本を通して、自分とは違う方法で、情報を獲得したり、伝えたりする人がいる、ということに気づくこと。この絵本が、そんな新しい世界に気づくためのきっかけになればいいんじゃないかな、と思っています。

いかがでしたか。
隣の人と、手をつなぐ。そのために、きっと、相手の気持ちを推し量ったり、どきどきしたり、勇気を振り絞ったり、あれこれと心を砕くんじゃないかと思うのです。
そして、そんな風に、誰かのために、一生懸命に想いを尽くすという在り方が、お互いを大事にすることにつながっていくと、私は思います。

すぐ隣の人を、大切にできますように。そして、「大切」の気持ちの輪が、少しずつ、少しずつでも、繋がって、広がっていきますように。