この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。
雨の絵本、傘の絵本って、とても多いんですよね。
子どもたちにとって「雨」と言うのは、日常で味わえる非日常だからじゃないかな、と思います。予期せず訪れる身近なイベント。
今日は、そんな〈雨の日は 特別な日〉を感じられる絵本をご紹介します。
まずは、雨の日のお出かけが楽しくなる1冊から。
『かささしてあげるね』はせがわせつこ:文 にしまきかやこ:絵 福音館書店
ぞうさん、きりんさん、ありさん、くまさん。それぞれの背中に降る雨が奏でる音がそれぞれに違い、そして楽しいのです。それぞれの「らしさ」が表れていて、軽やかで、雨の音、と一言で言っても、実は色々な音があるんだな、と気づくのです。
雨の日に、どんな音を見つけられるかしら、と、お出かけしたくなります。
そして、雨の日のお出かけが楽しくなる絵本をもう1冊。
『おじさんのかさ』佐野洋子:作 講談社
大事な大事な傘が濡れないように、雨が降っても決して傘をささない「おじさん」。このおじさんの「おかしさ」が、本当に見事に表現されているのです。絵がユーモラスなのはもちろん、言葉の絶妙な間合いもいい。何度読んでも、おかしい。さすがの巧さを感じます。
子どもたちにとっては、雨の日の楽しさを味わえる絵本ですが、大人たちは、自分と照らし合わせて、それぞれの気づきがありそうです。どんなに「大事なもの」でも、汚さないようにと使わずにいては、生かされない。使って、活用してこそ、「大事なもの」が輝き、価値を持つんじゃないかな・・・とかね。
おじさんが初めてかさをさした日のことは、ユーモラスに描かれましたが、もっと小さな子どもにとっては、人生の大きな1ページかもしれません。
『あまがさ』やしまたろう:作 福音館書店
特別なことは何も起こらないのです。雨傘を使って見たくて、待って、待って、待って、ようやく雨が降り、そして、1人で傘をさして歩く。
特別なことは何もなくても、小さな子どもは、1日1日を本気で生きていて、「何も起こらないこと」さえ、大事件なんだと気づきます。楽しみなことを「待つ」ことの大切さを、周りの大人がちゃんと知っていて、「待つ」ことに寄り添い、見守っている描写もとてもいい。
待ちに待った雨の日、子どもが傘をさす場面の言葉が、とてもきりりとして、緊張感と誇らしさが伝わってきます。
絵は、子どもらしい可愛らしい絵ではありません。(ちょっと苦手な人もいるかも。)でも、この本の持つ雰囲気にふさわしいと感じました。子どもを愛玩するのではなく、成長を喜びながらも、自分自身で歩く姿から手を離す覚悟。そういう愛情がじわじわと伝わってきます。
雨には雨の楽しみがある、とは言え、時には晴れて欲しい事情のある日もあり・・・、さぁ、てるてるぼうずの出番です。
『コッコさんとあめふり』片山健:作 福音館書店
コッコさんの振る舞いを見て、はっとしました。「あぁ、それは思いつかなかった・・・」と。そして、思いつかなかった自分の傲慢を、ひしひしと感じました。
雨がやんで欲しいコッコさんは、てるてる坊主を作ります。軒下に吊るして、「雨がやみますように」とお願いします。・・・そこまでは、きっと誰もが経験のあることと思います。
でも、考えてみれば、てるてるぼうずは、雨をとめてください、と一方的にお願いされるばかり。その、てるてるぼうずのことを、気に留めたことはあったでしょうか?そういう、人としての優しさを思い出させてくれます。
〈絵本からひろがる遊び〉の記事では、『コッコさんとあめふり』から広がる遊びも紹介しています。
雨模様に似合う生き物と言えば、カエル。可愛いだけのカエルではなく、力強く生きているカエルの絵本です。
『ゆかいなかえる』ジュリエット・ケペシュ:作 いしいももこ:訳 福音館書店
表紙のカエルの表情、表紙を開いたページ一面のオタマジャクシの表情。これがまぁ魅力的なんです。ユーモラスで、生き生きしていて、憎めない感じで。この表情を見ただけで、あぁ絶対にいい絵本だ、間違いない、という予感がします。
もちろん予感通りに、生き生きと生命力にあふれた絵本なのですが、それだけではなく、自然界のリアルから逃げていないところも、いいな、と思いました。冒頭、カエルの卵から始まる場面では、生き残った4匹以外の卵は、みんな食べられているのです。そして、捕食者から何とか逃げて、生き永らえたカエルたちは、お昼ご飯に「とんぼの幼虫」を食べます。食べたり、食べられたり、という現実の中に、それでもユーモラスに生き抜くカエルたちに、生きることの逞しさを感じます。
科学の視点という切り口で、もう1冊ご紹介します。
『あめがふるときちょうちょはどこへ』 メイ・ゲアリック:文 レナード・ワイスガード:絵 岡部 うた子:訳 金の星社
美しい絵本です。
絵がとにかく美しい。言葉も詩のようになめらかで美しい。そして、雨の日に、他の生き物の過ごし方に想いを馳せる、その心が美しい。
他の生き物の過ごし方に想いを馳せる優しさは美しいのですが、その描写は甘ったるくなく、生物の生態に基づいた正確な情報が伝えられます。何より「あめがふったら、ちょうちょはどこへいくのかしら?」という疑問の答えを探そうと、他の生き物の事例を調べる、と言う手法が、充分に科学的ですよね。
そして、この絵本の最大の魅力は、「ちょうちょはどこへ?」の答えが、絵本の中では明かされないことです。絵本を読み進むだけで答えを得られてしまえば、多分、その答えは、さして心に残らないでしょう。簡単に得た答えは、簡単に忘れるものです。
でも、絵本を読んで答えを知りたいと思い、庭で観察したり、図鑑で調べたり、詳しい人に教えてもらったりして、答えが分かれば・・・、それは自分で導き出し、到達した答えですから、きっと、ずっと忘れない大きな気づきになると思うのです。
例え、ちょうちょや生き物に興味がなかったとしても、「自分の手で答えを見つけ出した」という自信は、子どものその先の学びの在り方に、きっといい影響を及ぼすと思います。
そういう意味でこの本は、本を閉じたあとまで、子どもたちに学びの楽しさを教えてくれる魅力的な1冊だなぁと思うのです。
いかがでしたか。
雨が多く、家で過ごすことの多い6月。親子で絵本を楽しむ時間になれば嬉しいです。