この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。
新緑の美しい季節になりました。
お日様の光をうけて、きらきら光る葉っぱは、本当に魅力的です。
葉っぱのお話、というと、『魔女の宅急便』の中で、キキが依頼主さんからのお手紙をなくしてしまい、文章を思い出しながら、大きな葉っぱに書いて届けた話を思い出します。(もとの文章とはだいぶ違っていたので、子ども心に、それでいいのか・・・と気になっていたんですけれどね。)
春から夏、エネルギーにあふれる「葉っぱ」に目を向ける絵本を紹介します。
『はっぱ きらきら』多田多恵子:文 山本尚明:写真 福音館書店
お日様に透かした葉っぱ1枚1枚を、丁寧に味わう絵本。ページをめくりながら、どんな形の葉っぱかな。ギザギザしているな。線がもようみたいだなぁ。と、葉っぱをじっくり「観る」視点が増えそうです。
この本は〈ちいさなかがくのとも〉の1冊。そう、かがく、というのは、こんな風に身近なものに興味を持って、じっくり「観る」ところから始まるなぁ、と、改めて気づきました。
身近な自然に目を向ける絵本をもう1冊。
『ざっそう』甲斐信枝:文/絵 福音館書店
「雑草と言う草はない」と言ったのは、高知県出身の植物学者、牧野富太郎博士だと言われていますが、野の草たちと丁寧に向き合う人は、みんなそう思っているんじゃないかしら。
作者の甲斐信枝さんの絵本づくりのドキュメンタリーを観たことがあります。小さな椅子を持って、草むらにスケッチに出かけ、草と自分との境界線がなくなりそうなくらい、その植物の中にぐーーーーっと入り込んで、1日中でも時間をかけてスケッチをしていました。
甲斐さんの描く植物が、みんな繊細で、それでいて生きる力に満ちているのは、生きている植物の魂みたいなところに深く入り込んでいるからなのかもしれません。私は、子どもの頃、この本で出会った植物たちが何種類もあります。道端でハルジョオンを見かければ「はるにさくのが、ハルジョオン。なつにさくのが、ヒメジョオン」と、ふと絵本の一説を唱えているのです。
葉っぱと共に小さな生き物たちの姿にも目がとまります。
『くさはら どん』松岡達英:作 福音館書店
甲斐信枝さんの植物と同じように、松岡達英さんの描く生き物たちは、正確で、詳細で、生きている実感を背負っているようなリアリティを感じるのです。(最初に出会ったのは『ぼくのロボって大旅行』でした。これも名作!)
くさはらの葉っぱの中に、どんな生き物がいるのか。子どもたちの足しか目に入れないくらいの小さい小さい世界の中に、どんな生き物が生きているのか。1つ1つの絵を読んで、じっくり楽しめそうです。
最後に、とっておきの葉っぱの物語です。
『葉っぱ切り絵コレクション いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』リト@葉っぱ切り絵:作 講談社
葉っぱを切って、細かい生き物たちを生み出す人がいることは知っていました。SNSなどでも話題になっていましたよね。
今回、改めて本を手に取ってみて、1枚1枚の葉っぱの中に、物語がぎゅっと詰まっていることを知りました。そこに切り出された生き物たち、1つ1つに物語があり、感情があり、意味を持ってそこにいるのです。
「スゴ技を使って、葉っぱを細かく切った作品」ではなく、「自分で読み解く物語がぎゅっと詰まったお話の葉っぱ」と思うと、想像がどこまでも膨らんでいきそうです。
いかがでしたか。今の時期だからこそ楽しめる緑の美しさ。
身近なものから季節を感じ、身近なものに目を向ける、そんな気持ちを思い出しながら、読んで頂けたら嬉しいです。