この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。
11月のテーマは「お仕事の絵本」。紹介したい本が沢山あるので、今月は前後編に分けてお届けしています。
前編の記事では、生活の周りにある「色々な仕事」に気づくような、仕事案内っぽい絵本をご紹介してきました。
後編では、個々の働く人の魅力に出会える本を紹介します。
まずは、ある働き者さんの1日の様子を描いた絵本。
『パンやのくまさん』フィービ&セルビ・ウォージントン:作 まさきるりこ:訳 福音館書店
こんなタイトルの本を目にすると、くまさんが働く、お店屋さんごっこ的なパン屋さんが出てくるのかしら、と思うかもしれません。
ところが、いい意味で期待を裏切られる本です。
くまさんは、それはそれは働き者。朝早く起きてパンを作り、朝のうちは車に乗せて街へ売りに行き、午後からはお店番。1日の仕事が終わると、売り上げを数えて、明日に備えてまたよく休みます。
その淡々とした日常が、リアリティを持って描かれています。
主人公、くまさんじゃなくていいんじゃない?!って思うくらい、甘くない。甘くないのです。
例えば、可愛い動物のお客さんが訪れたり、その動物の形のパンを焼いたり
この世にないほど大きなパンを焼いたり・・・というファンタジーなエピソードは全く登場しません。くまさんは普通の町に住み、普通のパンを焼き、お客さんは普通の人間たちです。
普通のパン屋さんの普通の一日を綴っている物語が、充分に魅力的なものである、というという確信を持った作者の姿勢がいいなぁ、って、思いませんか?
作者がそれぞれの職業に敬意を払い、働くありのままの姿こそが物語であり、尊いと感じていることが伝わってきます。
その傍らで、朝ごはんの紅茶をちゃんと読む描写など、丁寧な暮らしぶりも描かれていて、そこにもほんわかした気持ちになるのでした。
ところで、このくまさんのシリーズは、「パンやさん」以外にも、「ゆうびんやさん」「うえきやさん」「せきたんやさん」と様々な職業が登場します。どの職業に就いても、くまさんは勤勉で働き者です。(私は、せきたんやさんの素朴さが、好きです。)
働く大人の等身大の姿を綴った絵本をもう1冊。
『おとうさんはだいくさん』平田昌広:作 鈴木まもる:絵 佼成出版社
「おとうさん・おかあさんのしごと」シリーズの中の1冊です。このシリーズのすてきなところは、子どもたちからの目線で描かれているところ。
家での様子や休みの日のくつろいだ姿も描かれています。「家ではゴロゴロしているけれど、仕事に行く時は、こんなにきりっとしていて、かっこいい」という風に語られる「はたらく人」の姿に、すごくリアリティと親しみがあるのです。
自分のおとうさん・おかあさんも、こんな風に働いているんだ、誰かの役に立っているんだ、という気づきを促してくれる気がします。
大工さん以外の絵本も、ぜひ手に取って頂きたいです。
最後に、私が大好きな「働く」絵本です。
『ちょろりんのすてきなセーター』 降矢なな:作 福音館書店
ここに登場する2人(2匹)の人生の達人は、働くことの達人でもあります。1人は、主人公ちょろりんの「じいちゃん」で、もう1人は、ちょっとこわそうな「びきびきおばさん」です。
2人は、自分の仕事に誇りを持ち、淡々とその仕事を続けています。そして、仕事が人に喜ばれることであり、仕事によって自分にも喜びが得られることを経験したちょろりんは、人生の達人たちと、少し深いところで心を通わせ合うのです。
最初は自分が欲しいもののために、なんとなく働き始めたちょろりんでしたが、「じいちゃん」の存在感に気圧されるようにして、次第に真剣度が上がっていきます。作業を進めるうちに、自分が向き合っている仕事への責任感や愛おしさが湧いてきて、納品の時には「じいちゃん」が何も言わなくとも、自分で何をするべきか考えて行動できるようになっているのです。そして、仕事をやり遂げた時の清々しさ!
また、一見こわそうな「びきびきおばさん」も、自分の仕事に誇りと自信を持っていることが伝わってきて、こわいだけではなく、カッコイイのです。
働くことの達人である2人が「はたらくってこういうことだ」と一言も語らず、淡々と仕事に向き合っていからこそ、積み重ねてきた年月と誇りの重みを感じる絵本です。
こんな風に、「働く」を重ねていきたいなぁ、と思うのでした。
いかがでしたか。
仕事の絵本や、働くことの絵本は、生き方の絵本でもあるなぁと思うのです。絵本を楽しみ、そして、親自身の仕事のことや、子どもが興味を持っている仕事のことを、親子で話すきっかけになればいいですね。