この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。
子どもたちの「描く」姿が、好きです。
子どもたちにとって、自分のはたらきかけによって、目の前の様子がどんどん変化している様は、きっとわくわくするのだろうなぁ、と思うのです。
上手く描くことに意識を向けるのではなく、線の重なりとか、色の混ざり合いとか、偶然できた形の不思議さとか、そういうところを1つ1つ面白がることができたとき、「描く」ことは、本当に魅力的。
もちろん、そういうすてきな遊びは1年中大切にしたいけれど、「芸術の秋」ということで、今月は「色いろいろ」のテーマで絵本をご紹介します。
『どんな いろが すき』100%ORANGE:イラスト フレーベル館
おはなし会で歌うと、子どもたちがとても喜ぶ「どんな いろが すき」の歌の絵本です。子どもたちと歌う時は、子どもたちに「どんないろが好き?」と問いかけ、それに答えてくれるという双方向の関わりが楽しいのですが、絵本になっていて、1色ずつの魅力を丁寧に味わえるのもいいですね。赤いもの・黄色いもの・青いもの・・・たくさんのモノが並んでいるのが楽しいので、好きなものや知っているものを見つけて楽しんでくださいね。(くれぐれも、色を「教える」ための教材に使わないでほしいなぁ、と思っています。)
好きな色で、何を描きましょうか。
『ぼくのくれよん』長新太:作 講談社BOOK倶楽部
とにかく、この絵本では、ぞうさんが「気持ちよさそう」に描く姿がすてきなんです。絵を描くって、上手に描こうとか、きれいに描こうではなくて、まずは、描いていて心地よい、というところからスタートできたらすてきだな。そんな気持ちになります。
絵の具もいいですね。
『いろ いきてる!』谷川俊太郎:文 元永定正:絵 福音館書店
子どもたちと絵の具の活動をしていると、こんな風に、色が生きているように、どんどん形を変えていく様子をリアルで楽しむことができます。
だから、こんな絵本が必要ないか、というと、そんなことはないんですよね。自分たちが描く楽しみに夢中になっている時には気づかなかったような色の変化や、動きの美しさや、混ざり合う面白さを、じっくり楽しむことができます。そして、自分たちの絵の具の活動を肯定されるような、背中を押してくれるような気持ちになるかもしれません。
いろが、いきているような絵の具の様子は、色々なものにも見えてきます。何かに見立てたり、絵の具の想いを想像したりしながら、自由に楽しみたい絵本ですね。
色絵本の古典と言っても良い、昔から読み継がれている本
『いろいろへんな色のはじまり』 アーノルド・ローベル:作 まきたまつこ:訳 冨山房
魔法使いが灰色の世界に色をつけようと「あれをちょっぴり」「これをちょっぴり」材料を混ぜ合わせて、色を作るお話。私が小学校3年生くらいの時に、三原色を伝えようと、先生がこの本を読み聞かせてくれました。そのあとの図工の授業では、みんな「あれをちょっぴり」「これをちょっぴり」と言いながら絵の具の色を混ぜていたことを覚えています。
子どもたちの大好きな繰り返しの要素もあって、ファンタジーとしても楽しい、王道の物語です。最後には、ちょっと切り口を変えた、この1冊。
『いろいろ色のはじまり』田中 陵二:文・写真
最初にこの本を見つけた時は、1冊前に紹介した『いろいろへんな色のはじまり』と、少し題名が似ているなぁ、って思いながら、手に取ったんです。でも、切り口が全く違うことに驚きました。『へんな色のはじまり』は、おとぎ話てきな「はじまり」でしたよね。でも、こちらの絵本は「色」を生み出すために、自然の中にあるどんな材料を元にしているのか、という意味での、科学的な「はじまり」が語られている絵本だったんです。(ネタ晴らしをしますと、福音館の中でも「かがくのとも」シリーズから出ています。)
絵の具や顔料が何から生まれているのか。鉱物や植物、自然の中から、私たちが色を取り出している、その知恵と技術が感じられます。感性の切り口で語られがちな色の世界に対して、こんな風に科学的な視点を持つと、また違った面白さがありますね。いかがでしたか。
色の絵本を読んでみて、それが、描くあそびをやってみようかな、と思うきっかけになったら、きっと楽しいだろうなぁと思います。ぜひ絵本の中から、自分たちなりのあそびを、見つけてくださいね!