〈働く現場に子どもがいる〉という環境

こそだてビレッジ

初めて働く現場に子どもを同伴した時のこと

子どもたちが私の働く姿を始めて見たのは、息子は4歳、娘は1歳半の時でした。

週末に1時間だけ打ち合わせの予定が入り、家族も別の予定で子どもを頼めなかったこともあって、1時間なら何とかできるんじゃないかと、チャレンジしてみたのです。打ち合わせの内容は、受託していた社員研修のフィードバック。先方の担当者(研修を受けた社員さんの上司にあたる方)に、隣室に子どもがいる状況でも良いかと打診すると、「週末にまで対応頂き、むしろ有難いくらい」と、快く承諾頂けたのです。

この日の打ち合わせは13:00スタート。午前中に職場近くの公園で目一杯走り回ってから、4歳の息子とシールブックや塗り絵を選んで、いつもより沢山購入。お昼ご飯をすませたら、1歳半の娘は、抱っこで寝かしつけ。(打ち合わせ10分前から昼寝。)買ったばかりのシールブックを早く使いたくて楽しみにしていた息子には、お話している間は隣の部屋で静かに遊んでいてねとお願いをして、打ち合わせに臨みました。

予定していた1時間は、用意していたシールブックと塗り絵で無事に乗り切ったものの、先方からのリクエストで議題が増え、2時間半を超える打ち合わせになってしまいました。
幸い、娘は空気を読んで長く眠り続け、シールブックを使い切った息子は、打ち合わせの部屋に同席する許可を頂き、ホワイトボード一杯に恐竜の絵を描いて過ごし、最後は、先方の担当者も、研修を受けた社員の方も一緒におやつを食べながら、何とか乗り越えることができました。

4歳の息子にはもちろん、1歳の娘にも、母は今日は仕事であること、おじさまと大事なお話があり、その間は静かに待っていてもらいたいことを伝えていました。仕事をする母の姿、それも、打ち合わせという舞台裏の部分をリアルにこどもに見てもらえたことは親子にとって幸せな経験だったと思います。いつもと違うトーンで話をする母の姿を、息子がどう思ってみていたのかは分かりませんが、母の空気感が何か違う、という、それを感じてもらえただけでも、何か、働いている、ということへの実感を持ってもらえたのではないかと、期待しています。

実はこの後、フリーランスとして働くようになってから、子ども向けプログラムの際など、何度か子どもに同伴してもらっています。参加者の1人として場を盛り上げに一役かったこともあったし、記録写真を撮ってくれたこともありました。そんな風に「親の働く姿を見てもらうのはいいよね」と思えるようになったのは、この最初の経験があるからだと思います。

ただ私の場合は、子どもに関わる仕事でもあり、打ち合わせ先の理解もあったという特殊な事情です。毎日のことではなく、特別な1時間だったからこそ、「昼寝してくれるよう事前にたっぷり身体を動かす」「いつもは買ってもらえない特別な遊び道具がある」という準備ができました。

特別だから乗り切れたけれど、毎日は難しい、そう思っていたのですが、常態的に「働く場に子どもがいる」という取り組みをしている企業があるというのです。

「子連れ出勤」に取り組んでいる企業

子連れ出勤の取り組みを実践されているソウ・エクスペリエンスという会社の見学会におじゃましました。

取り組みを始めた経緯や現状の話を聴かせて頂きながら、「子連れ出勤」という取組みがなかったとしても、この会社の持つ企業文化は、とてもすてきだな、と感じました。

個々の能力をお互いに尊重し合う姿勢や取り組んでいる仕事を大事に思う気持ち、そういう人と人との結びつきが話の端々から伝わってきました。そんな結びつきのある会社だからこそ、「子連れ出勤」という方法を始めることができたのだろうと感じました。

「子連れ出勤」は、斬新なアイディアですが、最初に始めた時には、斬新かどうかなんて意識はなく「子ども、連れて来たら?」という、思いつきから始まったようです。お子さんの預け先がない、という女性社員の企業への貢献と仕事への想いを、会社側も認め尊重していたからこそ、「預けるところがないなら、連れてきてでも働いてほしい」という方法に至ったのだ、というようなことが、言外に感じられました。

正直に言うと、〈子どもにとって望ましい居場所か〉という視点から見ると、何とかできたらいいなぁ、と思える点もありました。

ただ、働く母/父にとっては、「こどもがいる」ことがマイナスにならず、父であり母であることも含めた、その人自身と家族が大事にされる、という実感が持てることは、安心できるだろうなぁ。課題はあれども、「ここに自分の居場所がある」と感じられる心の拠り所となるだろうなぁ、と思えるのでした。

働く親にとっての働きやすさを考えることは、単に「子育て中の社員がどういうサービスを欲しているのか」という話ではなく、様々なバックグラウンドを持つ人にとって働きやすいのかどうか、今までの枠にとらわれない新しい形を模索するチャンスなのかもしれません。

託児つきシェアオフィス、という可能性

親が働く場に子どもがいる、という環境を考える時、ぜひお伝えしたい場所が「こそだてビレッジ」です。ここは、子どもと一緒に通えるシェアオフィスです。

母親あるいは父親が、〈子どもと一緒に過ごすこと〉と〈仕事をすること〉を二者択一ではなく、どちらも選択できる、あるいは、そのバランスを選択できる場です。コンセプトは「こそだてとはたらくに選択を」。

子育てビレッジは、1つの大きなフロアに、主に子どもにとって楽しい場所と、主に大人にとって仕事をするための場所があります。でもその垣根は緩やかで、子どもは大人がパソコンを打つ足元で遊んでいることもあるし、大人が子どもが遊ぶエリアのビーズクッションに座り込んで仕事をすることもあります。
今は、午前中12時までは、完全託児として、子どものためのフロアで専門スタッフが子どもと過ごす間、父たち母たちは別フロアのオフィスで仕事を進めることができます。12時になれば託児時間は終わり、みんなでわいわいとお昼ご飯を食べてからは、同じフロアで想い想いに過ごします。託児スタッフは午後もその場にいて(ここがすごく重要だと思うのですが)、大人の人数が少し多い状況。大人たちは自分の仕事を進めながらも、全員が全員の子どもを同じくケアするような、そういう場でした。

初めてここを訪れた時、何か新しい可能性がある、と感じました。何度か訪れるうちに、子どもたち全員が、「みんなの子ども」になっているこの場が、とても好きになっていました。

子どもには、その年齢のこどもに必要な、空間と時間があります。だから私は、保育園という仕組みを、大事なものだし、必要なものだと思っています。自分のこどもたち2人も、保育園に本当にお世話になりました。沢山の暖かな時間と、愛情一杯の出会いを、頂くことができました。

ただ、もし子どもにとって必要な空間と時間に、大人の方が歩み寄れるようなタイプの仕事ならば?子どもにとって居心地の良い場所が、大人の仕事にとっても居心地が良かったら?・・・そこに、我が子と働く大人とが過ごす、新しい場の可能性があると思うのです。

「はたらく大人」でありながら、「親」である自分の両面が受け入れられる繋がりからは、仕事の上でも、親となる上でも、必要な助け合いだって生まれます。今、そんな新しい人と人とのつながりが、生まれていることは、とても幸せなことだと思うのです。

働く現場に子どもがいる、という環境は、ちょっと前では考えられないことでした。(100年さかのぼると、逆に、生活と仕事が隣り合わせにあり、子どもたちは親の仕事をいつも間近に見ていたと思うのですけれどね。)
ただ、小さな子どもの父や母が、自分が働いている間、子どもたちをどうしようか、と考えて、試しにやってみた働く現場に子どもがいる、という環境が、新しい価値や可能性を生み出しているようにも見えます。
それは、働く人も、その人の子どもも含めた1人1人にとって、どういう場が居心地がいいか、どういう場が相互の在り方を尊重されるのか、というコミュニティの在り方を、考えるチャンスが訪れる、ということだと思うのです。
全ての企業が、子どもウェルカムになって欲しい、と言いたい訳ではないのですが、生き方や働き方の選択肢の1つとして、そうやって新しい動きが起こっていることを、すてきだな、と感じています。