この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。
春の訪れを感じる3月。まだ寒い日もあって、正直言えばコートも手離せないけれど、でも、季節の移ろいを感じると、なんだか心がはずみます。
今月は、春が近づいていることを実感する「花がさいた」の絵本をご紹介しますね。
まずは、春の訪れを願う想いが、そのまま題名になった絵本から。
『はるがきた』ジーン・ジオン:文 マーガレット・ブロイ・グレアム:絵
こみやゆう:訳 主婦の友社
春が来て欲しいなぁ、と期待する想いと、自分たちで春を作ってしまおう、というわくわくする想いが重なって、春という季節に向けたエネルギーがわぁっと高まっていくことを感じる絵本です。色合いの明るさも、絵本に登場する町の人1人1人の表情の明るさも、とても気持ちが良い。
ただ待っているだけではなく、自分たちで行動を起こしたからこそ、まるでページをめくるように新しい季節が訪れたんだなぁ、と感じます。
個人的には、『だるまちゃんととらのこちゃん』の絵本を読んでいる時の高揚感を思い出しました。
季節がめぐっていくことの美しさを感じる絵本をもう1冊。
『はるとあき』斉藤倫/うきまる:作 吉田尚令:絵 小学館
はると、なつ、あきと、ふゆ、4つの季節を擬人化した物語です。決して出会うことのない「はる」と「あき」が交わす手紙が本当に美しい。言葉の優しさも、そこで語られる季節の情景1つ1つも、本当に繊細で、美しいのです。
1つ1つ違った個性を持つ季節があること、そして、その季節がめぐり、様々な情景を私たちに見せてくれることの幸せを、じんわりと感じられます。
春の訪れを象徴する花と言えば、やはり「桜」かもしれません。冬を越えた木々から、一斉に花が咲く劇的な変化は、確かに「枯れ木に花が咲いた」ように見えますよね。
『花じんま』田島 征三:再話/絵 福音館書店
田島征三さんの絵や言葉からは、地に足を付けて生きる人たちの息遣いと力強さを感じます。この『花じんま』は、そんな田島征三さんの描く「花さかじいさん」のお話です。土佐弁で語られる物語からは熱量が感じられ、イジワルじいさん&ばあさんには容赦なく、痛快。
私は最後の場面に納得感がありました。「殿様からほうびをもらう」という権威者からの評価ではなく、「花」が持っている本来的な役割に喜びを見出すところが、この物語のおじいさんとおばあさんには、しっくりくるなぁ、と思ったのです。
花が咲き、果実が実る喜びに注目した、ちょっと変わった1冊をご紹介します。
『もりのぎんこう』 作:舟崎靖子 絵:奈良坂智子 偕成社
「もりはおもしろランド」のシリーズの1冊です。(このシリーズは、2人の方が絵を描いています。シリーズ内で有名な『もりのゆうびんきょく』や『もりのおかしやさん』とは違う方の絵なので、ちょっと違う雰囲気に見えるかもしれません。)
ぎんこう、と言っても、私たちが思うお金をあずける銀行ではないのです。でも、お客様が自分にとって大切なものをあずけると、それを店主(いのししさん)が育て、価値を増やして返してくれるという営みは、たしかにぎんこうの持つ本質的な想いに近しいかもしれません。
あまり子どもの絵本には登場することのない、珍しい「お店」の在りようを、ぜひ楽しんで頂きたいと思います。
春以外の花の絵本も・・・。
『はないっぱいになあれ』 松谷みよ子:脚本 長野ヒデ子:絵 童心社
色鮮やかな絵が楽しい紙芝居です。
読み始めてみて、「あれ、どこかで聞いたことがあるお話だな」と思うかもしれません。小学生の時の国語の教科書に載っていました。
「花いっぱいになあれ」という願いとともに、空に飛んで行った色とりどりの風船。その風船の1つが届いた山の中での物語です。
小学校の時には、このお話を読んだ後に、他の風船はどこに届いたのか、物語を作るという課題がありました。きっと風船の数だけ、1つ1つ、違った物語が生まれたのでしょうね。
最後にご紹介するのは、私が大切に大切に想っている絵本です。
『はるかぜのたいこ』安房直子:作 葉祥明:絵 金の星社
さむがりやのうさぎさんが、あたたかくなる方法がないものかと、くまのがっきやさんを訪れるところから、物語は始まります。
さむがりやのうさぎさんが、自分のチカラであたたかくなろうとするところが、本当に大切なところだと思うのです。
安房直子さんの淡々としているけれど、そっけなくはない、やわらかな語り口が心地です。そして、葉祥明さんの描く最後の場面の圧倒的な説得力を観た時に、余計なことを言いすぎない言葉だからこそ、この場面がより迫ってくるんだなぁと気づきます。
本当に良い絵本は、言葉と絵が、相互にちょうどよく引き立て合うのですね。
『はるかぜのたいこ』は、こちらの記事でも、子どもを見守る大人の在り方、という切り口から詳しくお話しています。
いかがでしたか。
季節のうつろいを、ぜひ嬉しい気持ちで味わってみてくださいね。