この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。
クリスマスの物語の中で、「星」は大切な役割を担います。救い主の元にたどり着くための道しるべです。
誰にでも、そういう「星」のようなものがあると思うのです。雄弁ではないかもしれないけれど、自分が進もうと思う方向を示す拠りどころのような存在。それは、たとえ小さな光であっても、信じて向かっていけばその先で、何かと巡り合えるのかもしれません。
今月は「星」をテーマにした絵本を紹介していきます。
『クリスマスの星』アンディ・マンスフィールド:作 みま しょうこ:訳 大日本絵画
とにかく切り絵の美しさを味わいたい1冊です。「絵」本というよりも、造形作品のような繊細でダイナミックな仕掛けが本当に素晴らしい。文章は子どものためというよりも、祈りの言葉のような簡潔なものですが、個々の意味を理解するとうよりも、厳かな空気感を感じられたらいいなぁ、と思います。ちょうどクリスマスの日の礼拝堂に入った時のような。
そして、星の味わい方には、色々あるんだなぁと気づく物語。
『ほしのおんがくかい』齋藤槙:作 世界文化社
絵も文章もやさしくて、包み込まれるような気持ちになります。星から聴こえてくる「音」が本当に感じられるのです。
星の輝きに音を感じるために、心を静かに澄まして、夜空を見上げてみたいなぁ、という気持ちになりました。この絵本のおかげで、星の音を聴くことができるようになるかもしれませんね。
そして、「星」をどんな風に見上げるのか、というテーマでは欠かせないこの1冊。
『星の王子さま』サン=テグジュペリ:作 内藤濯:訳 岩波書店
絵本というよりも読み物と呼んだ方が良いかもしれませんが、この物語には、サン=テグジュペリ自身の描いた絵が欠かせない・・・という意味で、絵本の1冊としてご紹介したいと思います。
この本が大好きな大人たちも多く、本にこめられたメッセージを深く受けとめ大切にしている人も多い1冊。とはいえ私は、子どもたちは、王子さまが様々な不思議な場所を旅するファンタジーとして、楽しく読めばいいと考えています。自分にとって必要なメッセージがあるとしたら、大人になって、必要なタイミングでふっと思い出すのだと思うのです。
子どもの頃に出会うものは、「無数の星」のようなものかもしれません。無数の星の中から、星座を見出し、形を作ると、その星だけが浮き出して見えるように、大人になってから、星と星とがつながって、自分にとって意味のある何かを形作るのでしょう。
また『星の王子さま』は、現在、様々な作者による翻訳版が出版されています。今回は、日本で一番最初に翻訳された内藤濯版(岩波書店)を紹介しました。翻訳としてどれが優れているかどうかは、人によって判断の分かれるところですが、「私にとっては」自分が子どもの頃に一番最初に読み、その言葉づかいやフレーズも含めて『星の王子さま』です。子どもたちが最初に出会う作品って、それくらい、ずっとずっと心の中に残り続けるなぁ、という実感を忘れずに、子どもが触れるものを選んでいきたいとも思います。
少し切り口を変えて、星を味わってみましょう。
『星座を見つけよう』H.A.レイ:作 草下英明:訳 福音館書店
星座観察について、理科の教科書のように丁寧に、きっちりと伝えている絵本です。作者は、「ひとまねこざる」で知られるH.A.レイ。(表紙の黄色が同じですね。)星の世界をファンタジーではなく、科学や歴史を踏まえながら、じっくりじっくりと伝えています。子ども向けの科学絵本は誠実であってほしい、という想いに応えてくれる、安心できる本です。
そして科学的な切り口からもう1冊。
『宇宙 そのひろがりをしろう』加古里子:作 福音館書店
先に紹介した『星座を見つけよう』と、この本とを読み比べてみて、「科学的な切り口」と一言で言っても、その科学的アプローチも色々あるんだ!という驚きを感じました。そして、かこさとしさんの真摯さがひしひしと伝わってきました。それは、自分をとりまく世界の全てへの敬意と、子どもたちへの信頼とを持って、嘘のないように嘘のないように伝えようとする真摯さです。
この本は、「宇宙」というタイトルがついているものの、最初は「(小さな生き物である)ノミ」から始まります。子どもたちが知っている、ごくごく小さな世界からスタートし、少しずつ少しずつ階段を上り、そのたびに扉を開くようにして、視野が広がっていきます。宇宙に到達する時には、この本の半分以上を過ぎているのです。
『星座を見つけよう』が、地上から夜空を見上げていたのに対して、『宇宙』ではその夜空に近づき、宇宙に入っていこうとしています。どちらも科学的で、誠実で、それでも、こんなにも違う世界が見えるのです。
いかがでしたか。
星の輝きを観る印象が少し変わったかもしれませんね。
ところで、クリスマスの季節には、他にも魅力的な絵本が多々あります。
すてきなクリスマスをお過ごしください。