「働き方」は 喜ばれる仕事をするための手段なんだね

穏やかな社風の中堅規模のメーカーで5年4カ月、毎日が文化祭のようなベンチャー企業で8年3カ月、という勤務経験を経て、個人事業主という働き方を選んだ。6年前の話。

何か仕事上の目的があって個人事業主になった訳ではない。どうしても達成したいことはなかったし、個人で働く必然性もなかった。

理由らしい理由を探すとしたら、子どもが小学校に行き始めたことかもしれない。小学校という場が本人にとって居心地のよい場になるのかどうかが未知数だった。だから、ヘルプサインがあった時に、それに気づき、対処しやすい、時間的な自由度の高い状態でありたかった。
また、2社目のベンチャー企業で、気ままに働くことに慣れてしまい、普通の企業で働ける気がしなかった、と言う懸念もあったかもしれない。(会社よりも、上司と私の相性の話で、勤務時間中に情報収集のために出歩いたり、外部研修を受けたり、伸び伸び過ごしていた。)

とまぁ、いくつか理由を挙げることはできるものの、本音は、組織に所属しない働き方って、なんかかっこいいな、って、ぼんやりとした憧れがあったからだと思う。

いずれにしても、業務上の目的ではなく、プライベートの過ごし方ありきで選んだ「個人事業主」という仕事は、最初は仕事獲得の方法さえ分からない、お粗末なものだった。そのくせ、ちょっと変わった経歴持ちなものだから、「世の中には、私にしかできない仕事があるはず」という、妙な意識だけは高かった。

せっかく個人事業主になったのだから、自分が実現したいことを実現し、形になる仕事を為したいと、漠然と思っていた。でも、実は、そこが一番の難題だった。自分が、何をやりたいのかが、分からないのだ。

企業に雇用されて生きてきた間、私には、「やりたいこと」が沢山あった。でも、それは、自分が所属する組織の目的に適う形での「やりたいこと」だった。想定外の仕事でも面白がることが得意だった私は、どんな仕事でも楽しそうだと思える変わり、何をしてもいいよと言われると逆に困った。

個人事業主として、自分は何をやっていきたいのかが分からず、分からないので営業もできない。お仕事頂けるなら何でもやります、という想いはありながら、何が自分の売り物になるのかが分からないまま、仕事が獲得できず、実績らしい実績も残せずに、じたばたしていた。


個人事業主として仕事を始めて2年目。「新規プロジェクトのメンバーになって欲しいので、社員として働かないか」というオファーを頂いた。とても魅力的なプロジェクトだったので、業務委託で関われたらいいのに、と思ったのだが、「立ち上げの仕事なので、業務委託ではなく、社員になってもらいたい」という打診だった。

ありがたい話だった。そのまま個人事業主という立場に固執しても、自分がどこを目指そうとしているのか、いつまでも明確にならないかもしれない。それよりも、雇用して頂いて、魅力的なプロジェクトに取り組めるのだから、何の不満もないはずだ。

でも、悩んだ。

自分の名前で仕事をしていこう、と決めたのに、実績らしい実績も残せないまま、それどころか、自分が何をやりたいのかさえ言葉にならないまま、個人事業主の看板を下ろして、会社員に戻るというのが、なんだか、敗北のような気がして・・・悔しかったのだ。

悔しかったけれど、そのまま1人でもがき続けても突破口はなく、違うアプローチを試す必要があることは、うすうす感じていた。ならば、せっかく頂いたお話、助け舟だと思って乗ってみることにした。

プロジェクトの立上げまで、1年5カ月働いた。プロジェクトが立ち上がってからは、短時間の契約社員に立場を変えて、更に2年間雇用して頂いた。

学びの多い仕事だった。自分のキャリアを生かしながら、新しいジャンルへの挑戦ができた。そのジャンルに関わる人脈も広がった。

でも、その間も「個人事業主」の看板は下ろさなかった。雑誌への寄稿など、時間の制約が多くない仕事を少しずつ続けていた。「雇用されている」ことも、一部の人にしか伝えていなかった。
まだ個人事業主として終わりたくない、と思い続けていたのだと思う。小さな小さな意地だったのかもしれない。


2021年4月、色々なタイミングが重なり、自分のこれからの仕事について、一度リセットして考えることにした。

その時に、ふと、「私は本当は何をしたいんだろう」って問いは、もう手放してもいい、そんな気持ちになった。

「自分は本当は何がしたいんだろう」と自分に問い続けて、結局、5年経っても答えは出ないままだった。でも、私は、子どもと関わることが好き、ってことは、間違いがない。自分の好きな「子どもと関わること」で、誰かに喜んでもらえるなら、それでいい。そう思えたのだ。

なぜ、急に、そんな風に切り替えられたのか? 個人事業主になりたての頃との一番の違いは、〈あそびの専門家〉と自分に肩書を付けられたことだと思う。〈子どもと親子に関わることなら何でもやります〉と言っていた頃は、仕事獲得ができなかったけれど、〈あそびの専門家〉と言えるようになってからは、仕事を依頼頂くことも、少しずつ増えてきた。だから、〈自分が何をしたいか〉を追求しなくても良くなった。

そして、〈自分が何をしたいか〉にこだわらなくなったら、急に、働き方すら、こだわらなくてもいいな、と思えるようになった。どこかの企業に所属してもいいし、しなくてもいい。私のできることで、誰かに喜んでもらえることがあるなら、その仕事に夢中になって取り組めばいい。別に、働く自分の立場は、どうでもいいや、って。

会社員・会社員・個人事業主・会社員・個人事業主、と、働き方を色々と変えてきて、やっと、働き方は目的じゃなくて手段だよね、と気づいた。働き方にこだわっていた頃は、私自身ができることのうち、何をすれば喜んでもらえるのか良く分かっていなかったと思う。もちろん今でも、仕事獲得は苦手だし、何をしたら喜んでもらえるのか悩むことも多々ある。でも、少しずつ少しずつ、自分らしい「働き」ができるようになってきたんだと思う。

自分のできることで、誰かに喜んでもらえることが一番嬉しい。今は個人で仕事をしているけれど、誰かに喜んでもらえるために、別の働き方の方が都合が良さそう、ということになれば、今度は、気負わずに、さらりと、働き方を変えられそうな気がする。