おもちゃの開発(モノ)、キッザニアや保育園の立上げ(環境)、ワークショップや学習プログラムの企画(コンテンツ)・・・と、様々に「子ども向け」のものを作る仕事をしてきました。学生時代の「創作人形劇公演」までさかのぼれば、25年・・・以上も、子どもたちと向き合い続けてきたことになります。
子ども向けのものを作るってことは、【どうしたら子どもが夢中になってくれるだろうか】という問いに向き合い続けることでした。今日は、子どもが夢中になれるものを作りたい、と、私が大切にしていることを、言葉にします。
1.〈本気〉で生み出す
子どもにこそ本物を、とずっと言い続けてきました。特にキッザニアで仕事をしていた時には、本物が子どもの本気を引き出すことを、日々実感していました。本物の制服。本物の道具。本物の働く人から教えて頂いたやりがいやプロ意識。
ところで「本物」って何だと思いますか?
私は、提供する側が本気であることが「本物」だと考えています。子どもだからこの程度でいいよね、とか、あんまり難しいことは分からないよね、とか、複雑なことはできないよね・・・という発想ではなく、提供する側が自分のできることを、全部そこに出すような本気。
キッザニアの「本物」が子どもたちの本気を引き出したのは、私たち作り手・ノウハウを提供してくれたスポンサー企業さん・現場で子どもたちに伝えるスタッフの全てが、「仕事」の想いは子どもに伝わることを、心から信じて、本気で向き合ったからだと思うのです。
読み継がれてきた絵本が「もう1回」「もう1回」と子どもを夢中にさせるのは、作り手が本気の芸術作品を作り出したからです。
動物園から子どもが帰りがらないのは、もちろん、動物の魅力もあるけれど、動物の生きている姿の魅力をいかに引き出すか、という、職員さんの本気の工夫があるからだと思います。
また、プレイパークで、のこぎりを使う子どもたちの真剣さは、それが「本物の刃物」であることと同時に、「危険があることは承知の上で、あえて子どもたちの挑戦の場を大事にする」大人たちの本気があるからだと思うのです。
だから、大人の本気を見せることを忘れずにいたい。そして、子どものできることや感じることを低く見積もらないで、子どもは大人の本気を受け取れると信じていようと思うのです。
2.〈知識〉ではなく〈驚き〉を伝える
見聞きすることのできる「情報」の量が、日に日に増えています。ちょっと検索すれば、何でも分かる。動画や写真で見ることもできる。だから、やったことはないけど知ってるよ、ということが、どんどん増えています。
子どもたちも同様です。「透明なゼリー状の黒いたまご」の写真を見れば「カエルのたまごだー!」って分かったり、「トマトは、英語では、とめいとぅ、って言うんだよ」って教えてくれたり、と、多くのことを「知って」います。そして、もし、自分で覚えていなかったとしても、「検索すればすぐ分かるから覚える必要ないよね」という時代が来ています。
だからこそ、自分で実感することの価値が高くなっていると思うのです。
例えば、写真で「カエルのたまご」を知っていたとしても、実際にカエルの卵を観れば、きっとその長さに驚くと思います。触った感触にも驚くかもしれません。もし、一部を家に持って帰って、育てたりしたら、小さな小さなオタマジャクシが、大きくなって、手が出て足が出て、だんだんカエルに近づいていく・・・という生き物の成長と変化を目の当たりにします。まさに驚きの連続です。
そうやって五感を伴った経験をして、ようやく知識が自分のものになると思うのです。そこで得た「実感」は、時間をかけて自分の中に深く刻まれたもので、すぐに手に入る「情報」とは重みが違います。
そんな風に時間をかけた実感を得るためには、入り口でぐぐっと興味を持てるような工夫も必要だと思うのです。
その、ぐぐっと興味を持つきっかけになるのが「驚き」。
だからこそ「知識」そのものよりも、知識に出会ったことによる「驚き」を伝えたい。なぜかな、不思議だな、もっと知りたいな、という気持ちが湧いてくるような、魅力的な「驚き」を演出したいと意識しています。
3.〈正解〉を想定しない
私もかつては、工作のパーツをぜーんぶ切って準備していき、子どもたちは、準備されたパーツを組み立てるだけ・・・というワークショップを実施したこともありました。
でも今は、そのスタイルは広がりがないなぁ、と思っています。というのは、パーツを組み立てるタイプの工作は、大人が想定した完成形があるからです。どんなに「自由に作っていいよ」「1人1人違うのがいいね」と言ったとしても、子どもは組み立て方の「模範解答」があると感じてしまう。そうすると、「作りたいものを作る」のではなく、「求められているものを作る」ことに、気持ちを切り替えてしまう場合が多いのです。
今では、大人が正解を持っていて、そこに誘導するようなワークショップは、なるべく企画しないようにしています。大人の意図した正解をたどるのではなく、子ども自身が、あれこれ試行錯誤する時間を守りたい、と思うようになりました。
更に、その試行錯誤の中から、子どもたち自身が、活動を発展させていたら、尚のこと嬉しいです。
そのためには、何かを作るための素材や、考える材料は潤沢に用意しておき、後はじっと見守っているのがいいなぁ、と思います。そして、子どもが本気でやったことは、ちゃんと受け止める。
子どものためのコンテンツは、大人の意図に合わせることが目的ではなく、子ども自身が、興味を持ち、面白がり、考え、悩み、失敗して、やり直して、工夫して、本気で取り組めるものでありたいのです。そこから、変化したり発展したり、当初の予定とは全然違う風に形を変えるものもあるかもしれません。それでいいのです。
子どもたちが興味を持ちそうな入り口は用意するし、どんな風に発展しそうか想定して材料も準備しておく。けれども、子どもたちが取り組みを始めたら、手放す。そんな意識で、子どものためのものを作っていきたいと思うのです。
まとめ
子どものものを作る時に大切にしていることとして、3つ、お伝えしました。
1.本気で生み出す
2.〈知識〉ではなく〈驚き〉を伝える
3.〈正解〉を想定しない
そして、何より声を大にして言いたいのは、子どもにとっての楽しさとは、面白可笑しいだけではない、ということです。本気で取り組むこと、真剣に向き合うこと、夢中になって打ち込むことは、実に実に楽しいことなのです。
大人の本気と、子どもの本気が向き合い、お互いの本気を尊重し合えるような、そういうものに、子どもたちが沢山出会えたらいいなぁと願っています。
明日は「親子に向けたものを作る時に大切にしていること」を書きます。