【季節のおすすめ絵本】10月:感謝して「いただきます」

この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。

秋は実りの季節です。食欲の秋でもあります。そんな訳で、秋には、食べ物の絵本、とりわけ、秋に収穫される果物やおいも、寒い時に嬉しいほかほかのスープやパン・・・などの絵本を紹介してきました。

今回は「食べ物」の絵本でもちょっと趣を変え、「誰かが手間暇かけて用意してくれたこと」へと思いを馳せるような絵本を選びました。
「いただきます」という言葉は、食べ物の命を頂くことへの感謝の言葉ですが、同時に、その1つ1つの命を、育てて届けてくださっている方たちに対しての感謝の想いもこもっていますね。


14ひきのあさごはん』いわむらかずお:作 童心社
「丁寧なくらし」なんて言葉が流行するずっとずっと前から、当たり前のように丁寧なくらしを送っている14ひきのねずみたち。朝ごはんは、野いちごを摘み、火を起こしてスープを作り、こねた粉を丸めてパンを作ります。
毎日の生活を整えることに労をいとわず、でも、ちっとも大変そうではなく、1つ1つを楽しんでいることが伝わってきます。「暮らす」って、こういうことだなぁ。
家族全員が用意した朝ごはんは、間違いなく、その日1日を送るエネルギーになるのでしょうね。

家族のための食事だけではなく、もっとたくさんの人に喜んでもらう食事もあります。秋まつり、という、きっと収穫を感謝するおまつりの日の、みんなが楽しみにしている〈おいなりさん〉のお話です。



やまこえ のこえ かわこえて』こいでやすこ:作 福音館書店
秋まつりの前日。みんなが楽しみにしているお稲荷さんを作るために、お豆腐屋さんまで〈あぶらげ〉を買いに行くきっこちゃんのお話です。
あぶらげを無事に買って帰ってきたあとも、あぶらげを炊いて、ごはんをつめて、110枚のあぶらげ分のおいなりさんを、夜通し作る様子が描かれます。あぶらげを炊く甘い匂いまで、漂ってきそう。
そしてこの絵本、絵探しの楽しみも隠れているんです。あぶらげを欲しがる〈あやしい姿〉の正体は誰なのか・・・、何度でも絵を確かめたくなりますよ。

そして、食べることや、調理することは、文化や技術とも関わりが深いのです。時代の変化によって、食べることや調理することがどんな風に変わってきたのか・・・驚きと発見が一杯の1冊をご紹介します。


300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート
エミリー・ジェンキンス:文 ソフィー・ブラッコール:絵 横山和江:訳 
あすなろ書房

子どもたちの好きな繰り返しを楽しんでいるように見えて、ただの繰り返しではないのです。道具の変化、技術の変化、そして社会の変化までも自然に盛り込まれている、奥行きの深ーい絵本です。読み終わった時に、「ほぉーっ」とため息が出て、そして、最初から読み直しました。
300年前から作り続けてきた、とてもシンプル作り方のデザート。シンプルだからこそ、その変化が分かります。
そして現代では、インターネットで作り方を調べたパパと子どもが、いとも簡単に作る姿が描かれます。昔から伝わってきたものの姿を描くとき、現代の「便利」で「手軽」なあり方は、まるで昔からの伝統が伝わっていないかのように描写されることも多いのですが、この本は、そうではありません。
むしろ、「便利」で「手軽」で、誰もが一緒においしいデザートを食べられるようになって良かったなぁ、と、私は感じました。
本の中では、すべての時代が、フラットに、価値判断を交えずに客観的に描かれています。だからこそ、時代と共に道具や技術は変化するもの。それでも、デザートをつまみ食いする子どもの姿と、おいしいデザートを食べて嬉しい気持ちは変わらないよね・・・ということの幸せに改めて気づくのでした。

そして、今月の企画テーマは、この絵本を紹介したかったから・・・と言っても過言ではないくらい、ぜひぜひ大勢の方に知って頂きたい絵本を最後にご紹介します。



どこからきたの? おべんとう』 鈴木まもる:作 金の星社
ぼくの食べるお弁当。その1つ1つのおかずが、どんな風に旅をして、今自分の目の前にあるのかを、1つ1つ紹介してくれる絵本です。
卵焼きも、アジフライも、たくわんも・・・その1つ1つに、多くの人の仕事が関わり、多くの人の想いがこもっている、ということが、分かりやすく伝わります。
食材1つ1つのドラマを丁寧に描写しているので、じっくりじっくり楽しむことができるのです。細かい描写にリアリティがあるところも好きです。(卵焼きは、6切れに切って、2切れはぼくに。2切れはパパのお弁当に。端っこの2切れはママの分、とか。)中でもイチオシは、お母さんが、お弁当袋を作るための布を買いに行くお店の紙袋が「ユザワヤ」のカラーリングなこと!
この絵本を読んだら、目に触れる全てのものに対して、どんな旅をして、今ここにいるんだろう・・・って考えることが楽しくなりそうです。

いかがでしたか。
食べ物がここまでやってきた道のり、そして、そこに関わってくれた人たちに思いを馳せると、食べ物への感謝の気持ちが一層深くなるような気がします。

感謝して、「いただきます」。